何を測定できるのか?
こんな事に使えます
同位元素というと、すぐに年代測定が思い浮かびます。事実、これまで同位体顕微鏡システムは主に鉱物など宇宙科学の分野で、同位体比の分析に使われてきました。これは、入手した試料の断面を「ありのまま」に観察することによって得られる成果です。
その測定手法の発想を変えることで、同位体顕微鏡システムを産業応用に展開できます。すなわち、
「ありのまま」を観るのではなく、積極的に同位体元素を調べたい試料に「ドープ」することで、
今まで見ることができなかった目的のイメージングを測定することが可能になります。
これまでターゲットとなる試料内を調べるために「標識分子(プローブ分子)」が使われてきました。しかし、通常「標識分子」は、例えば蛍光色素のように、試料内の構造物とは大きくかけ離れているため、試料内の場を乱してしまい、試料本来の性質を変えてしまう恐れがあります。しかし、同位元素を使用するとその化合物の化学的性質は変わりませんから、同位体を含む化合物は最高の「標識分子」になると期待されます。これまで,この同位体標識分子はイメージングする事ができませんでした。しかし,同位体顕微鏡システムを使うことで、試料内の「標識分子」の位置を同位体比でイメージングすることができます。
一方で、同位元素を組み込むと試料の物性が大きく変わる「同位体効果」があることも知られています。このような同位体効果を最大限に引き出し、有用な物質を設計するためにも、同位体顕微鏡システムによる同位体比のイメージングは効果的です。しかも、同位体顕微鏡システムでは、安定性同位体を「標識分子」に使えるため、放射性同位体とは異なり安全に作業することができます。
利用例
【環境・エネルギー】分野
- 燃料電池の劣化制御
燃料電池の寿命向上が今後の実用化への重要なテーマとなっており、特に電極の劣化抑制が重要です。
高分子電解質に34Sを導入し、クロスオーバー現象を解明することで、高分子電解質の劣化の制御が可能です。 - 希少元素代替技術の開発
日本の先端技術・産業での利用が進む反面、需給危機が懸念される元素の代替技術の開発が重要です。
同位体酸化亜鉛膜により、ガラス基板との界面を調べ、従来品と代替品の界面制御を行うことが可能です。
【ライフサイエンス】分野
- ポジトロン断層法(PET)用薬剤の開発
PET用薬剤には放射性同位体が用いられており、病変部位に特異的に取り込まれる放射性薬剤の開発が急務となっています。しかし、放射性同位体の寿命、PETの空間分解能などの問題点がありました。
そこで、同位体顕微鏡システムを使うことで、細胞レベル、組織レベルで同位体薬剤の動態観察が可能となり、PET用薬剤の開発スピードを格段に高められると期待されます。 - 薬剤の生体内動態観察法の開発
すでに生化学用安定同位元素は、蛋白質の構造解析を始め、バイオ分野の様々な研究の中で使用されています。
ここに、同位体顕微鏡システムによるタンパク質の同位元素空間イメージングを加えることで、創薬開発のスピードは格段に早くなると期待されます。
【ナノテク・材料】分野
- ポリマー製自動車燃料タンクの開発
耐ガソリン用にポリマー積層膜が開発されつつあるが、多種ポリマー層の接着面の制御が必要とされています。
通常の1Hを含むポリマーと2H(重水素)を含むポリマーからなる界面を同位体顕微鏡システムで観察することにより、多種ポリマー層の界面制御が可能となります。 - 高温超伝導体の同位体効果の応用
超伝導においては、同位体による超伝導転移温度の違い(同位体効果)は重要です。
同位体として18Oを導入した際、18Oの分布と転移温度の相関を取ることで、高温超伝導体の開発が可能となります。